相続登記の義務化はいつから?相続人申告登記とは

相続税の申告は10ヶ月以内におこなわなければいけませんが、相続登記には法律上の期限がなく、罰則もありませんでした。

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そのため、現在では土地や建物、マンションなどの所有者が亡くなったにもかかわらず、何十年も名義変更をおこなわないまま、現在の所有者がわからなくなってしまう「土地所有者不明問題」が社会問題となっています。

土地所有者不明問題は相続登記を放置している間に二次相続が発生して権利関係が複雑になっているのが特徴です。

いざ相続登記をしようと思っても相続人が芋づる式に増えて相続人の所在がわからず、その結果、相続登記をすることができない状態になってしまい、日本各地に手を付けられない空き家が増えてしまいました。

この問題を解決するために、2024年(令和6年)4月1日から相続登記の義務化が施行されることになりました。

相続登記の義務化の3つのポイント

  • 相続登記の義務化は2024年(令和6年)4月1日からスタート
  • 不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料
  • 過去の相続分も義務化の対象

※ 義務化の対象になるのは所有権のみで、地上権、賃借権、抵当権、根抵当権などは対象外です

相続登記の義務化によって3年以内に相続登記を申請する必要がありますが、この3年の起算日(スタート日)は不動産の所有者が亡くなった日ではなく「不動産の所有権を相続したことを知った日」です。

よって、不動産の所有者が亡くなったことを知らない間は3年の期間は進行しません。

また、相続の開始を知っただけでなく、相続財産の中に不動産があることを知った時に初めてスタートします。

つまり、自分が相続人であることを知ったとしても、相続財産の中に不動産があることを知らなければ、相続登記の義務は発生しないということになります。

遺言書がある場合

遺言書が存在する場合は、遺言者が亡くなったことを知って、かつ、遺言によって自分が不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。

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遺産分割協議が成立した場合

相続人の間で遺産分割協議が成立した場合は、自分が相続人であること及び相続財産の中に不動産があることを知った日から3年以内に、遺産分割協議の内容を踏まえた相続登記を申請する必要があります。

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遺産分割協議が成立しない場合

遺産分割協議が成立しない場合は、自分が相続人であることを知り、相続財産の中に不動産があることを知ってから3年以内に法定相続登記(法定相続分の割合に応じた相続登記)をおこなうか、後述する「相続人申告登記」をおこなう必要があります。

その後、遺産分割協議が成立した場合は、成立日から3年以内にその内容を踏まえた相続登記を申請する必要があります

相続登記の義務化には罰則があり、正当な理由なく3年以内に相続登記をしなかった場合は10万円以下の過料の対象となります。

ただし、相続登記を申請できない正当な理由がある場合は過料の対象にはなりません。

法務省の通達では、以下のような場合が正当な理由に該当すると例示しています。

  • 相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する場合(相続人多数)
  • 遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているため、誰が不動産を相続するのか明らかにならない場合(法的問題)
  • 相続登記申請義務を負う者自身に重病等の事情がある場合(病気)
  • 相続登記申請義務を負う物が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律に規定する被害者等であり、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合(生命・心身の危害)
  • 相続登記申請義務を負う者が経済的に困窮しているために、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合(経済的困窮)
引用元:法務省の通達(令和5年9月12日法務省民二第927号)

上記はあくまでも例示なので、相続登記申請義務者の事情を総合的に考慮して正当な理由があるかどうか判断されます。

また、過料の制裁がいきなり科されることはなく、法務局から申請を催告されたにもかかわらず、正当な理由なく、その申請がされないときに限られます。

具体的には、法務局の登記官が登記申請義務違反の事実を把握した場合、まずは登記申請義務を負う相続人に登記を申請するように催告をして、それでも正当な理由なく登記申請をしなかった場合に過料通知をおこなうことになります。

相続登記の義務化は、2024年(令和6年)4月1日の施行日前に相続の開始があった場合にも適用されます(遡及適用)。

つまり、相続登記義務化の施行日より前の相続登記をしていない不動産についても適用があるということになります。

その場合、施行日(2024年4月1日)または不動産の所有権を相続したことを知った日のいずれか遅い日から3年内に相続登記をおこなう必要があります。

よって、施行日から3年以上経過していても、自分が相続人であることを知らなかったり、相続財産の中に不動産があることを知らなかった場合は、相続により不動産の所有権を取得することを知った日から3年以内に相続登記をすればよいということになります。

相続人申告登記は、相続登記の義務化によって相続人が申請義務を簡易に履行することができるようにする観点から設けられた制度です。

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相続人申告登記では、①所有権の登記名義人について相続が開始した旨、②自らがその相続人である旨を3年以内に登記官に申し出ることで申請義務を履行したものとみなされ、登記簿に相続人の氏名、住所等が職権で登記されますが、持分までは登記されません。

相続人が複数存在する場合でも、特定の相続人が単独で申し出をすることができ、他の相続人の分を含めた代理申出も可能です。

相続人申告登記では、法定相続人の範囲や法定相続分の割合の確定が不要なので、添付書面は申し出をする相続人が被相続人(所有権の登記名義人)の相続人であることがわかる当該相続人の戸籍謄本を提出することで足ります。

相続人申告登記の特徴

  • 相続人申告登記の申し出をした相続人のみが相続登記申請義務を履行したものとみなされる
  • 相続人が複数いても単独で申し出ができ、他の相続人の分を含めた代理申し出もできる
  • 登記簿に申し出をした相続人の氏名、住所等が職権で記載される
  • 法定相続人の範囲と法定相続分の割合を確定する必要がない
  • 被相続人と申出人の相続関係がわかる戸籍謄本を提出すれば足り、他の相続人の戸籍を提出する必要がない

相続人申告登記は、いわば報告的な届け出をすることで相続登記の申請義務を果たすだけの手続きに過ぎません。

つまり、申し出をしたとしても不動産の所有権を取得したことにはならないので、相続人として第三者に不動産の所有権を主張するには相続人全員で遺産分割協議をおこなって、その内容に沿った相続登記をおこなう必要があります。

相続人申告登記の最大のメリットは、申請義務を果たすことで過料の支払いを免れることですが、登記簿に住所、氏名が記載されることで固定資産税の請求書が届いたり、その不動産を利用したい国や行政から連絡が来ていろいろと面倒な対応をしなければいけなくなる可能性があります。

よって、そういったデメリットがあることも十分に理解したうえで、相続人申告登記をするのかどうかを慎重に判断する必要があります。

相続登記の義務化によって10万円以下の過料というデメリットが明確になりましたが、それ以外にも相続登記をしなかった場合のデメリットは多数あります。

デメリット

  • 不動産を売ったり、担保に入れることができない
  • 二次相続が発生し、権利関係が複雑になる
  • 相続人の高齢化により、遺産分割協議が困難になる
  • 戸籍や住民票の除票などが取れなくなる
  • 他の相続人が勝手に不動産を処分してしまう可能性がある

被相続人名義の不動産を売却したり担保に入れるには

土地や建物、マンションなどの不動産の所有者が死亡した場合、相続人が当該不動産を売却して現金化を希望するケースは珍しくありません。

しかし、売買による所有権移転登記をするにしても、被相続人名義からいきなり相続人以外の第三者の名義に変更することはできず、まずは売買による所有権移転登記の前提として相続人名義に変更したうえで、相続人名義から第三者である買主名義に変更するという手順を踏まなければいけません。

被相続人名義の不動産を売却する手順

被相続人名義 ➡ 相続人名義  ➡  第三者名義

相続人が被相続人名義の不動産を担保に銀行からお金を借りたい場合、銀行が不動産に抵当権を設定することになります。

その際も不動産の名義が被相続人のままだと抵当権を設定することができないので、手順としては不動産の名義を被相続人から相続人名義に変更してから、抵当権設定登記を申請します。

二次相続の発生による権利関係の複雑化

二次相続の発生というのは、当初の相続人が相続登記をしないうちに死亡してしまうことです。

例えば、被相続人Aの相続人が妻B、長男C、次男Dの3人だったとします。

B、C、Dの3人の間では、不動産は妻B名義にするとの口約束ができていましたが、実際に名義変更の手続きはしていませんでした。

その後、次男Dが急死したとします。

なお、次男Dの相続人は妻E、子F、子Gの3人です。

3人の相続人のうち子F、子Gの2人は妻Bへの名義変更を了承しているのですが、嫁Eと姑Bの仲が悪かったため、Eは反対です。

こうなると、もはや当初の約束どおり、遺産分割協議でB名義に変更するのは困難となり、Eが賛成しない限りはB名義への相続登記もできません。

こんなことになるのであれば、BはDが亡くなる前に相続登記をしておけばよかったと後悔するのですが、今となっては後の祭りです。

上記の例では、相続人の人数はまだ5人ですが、場合によっては相続人が一気に10人以上に増えてしまうこともあのでご注意ください。

そうなると権利関係がより複雑になるので、当然、遺産分割協議がまとまりにくくなります。

相続人の高齢化

相続登記をしないまま放置しておくと、その分だけ相続人も年をとります。

単に年をとっただけであれば特に問題ないのですが、判断能力が衰えてしまった場合は当該相続人は遺産分割協議に参加することができなくなります。

なぜなら、相続人が認知症などによって判断能力を失った場合は、当該相続人に成年後見人を付けなければいけないからです。

成年後見人を選任しないまま遺産分割協議をおこなっても法律上は無効となります。

これは、当該相続人を除外しておこなった遺産分割協議も同様です。

よって、相続人の中に認知症などによって判断能力がなくなった相続人がいる場合には、家庭裁判所に成年後見人選任の申し立てをして、その成年後見人を当該相続人の代理人として遺産分割協議に必ず参加させなければいけません。

成年後見人は認知症などにより判断能力が衰えた当該相続人の財産を維持管理するのが仕事なので、後見人が遺産分割協議に参加してきた場合、最低でも当該相続人の財産を守るために必ず法定相続分以上を要求してくるのが原則です。

よって、仮に、判断能力が亡くなる前に相続人自身が遺産はいらないと言っていたとしても、後見人が選任された以上は、少なくとも法定相続分を与える必要があります。

戸籍謄本などの保存期間

遺言書がない場合の相続登記では、被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍謄本(除籍謄本、改正原戸籍)が必要になります。

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そこで、戸籍謄本の保存期間が問題となります。

平成22年の戸籍法の改正により、保存期間が150年に大幅延長されましたが、改正されるまでの保存期間は住民票の除票は5年、除籍謄本等は50年もしくは80年でした。

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そのため、相続登記が遅れるとその分だけ除籍謄本、改正原戸籍が消去されてしまう危険があったわけです。

住民票の除票は、登記上の住所と被相続人の住所を一致させるために必要な書類です

住民票の除票で登記上の住所と被相続人の住所が一致しない場合は、戸籍の附票や改製原戸籍の附票を取り寄せる場合もありますが、戸籍法の改正前だといずれの保存期間も5年です。

住民票の除票等を取得することができず、公的な書類上では登記上の住所と被相続人の住所が一致しない場合は、不在籍・不在住証明書、当該不動産の権利証、相続人全員の上申書が必要になることがあります。

そうなれば、その分だけ事務作業が増え、費用もかかってしまいます。

他の相続人による処分の危険性

相続による名義変更をする場合、遺産分割協議が成立してから相続登記をするのが一般的です。

しかし、手続き上は遺産分割前であっても、法定相続分どおりの相続登記であれば、相続人1人で申請できるのです。

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相続登記をしない間にお金に困っている他の相続人が知らない間に相続登記をして、自分の相続分を第三者に売却してしまう可能性もゼロではありません。

また、すでに自分1人が不動産を相続するという内容の遺産分割協議が成立している場合であっても安心はできません。

なぜなら、たとえ遺産分割協議が成立していても、相続登記をしないでいるうちに、他の相続人が勝手に法定相続分どおりの相続登記をして、自己の持分を第三者に売却した場合、そのような処分も基本的には有効となるからです。

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