支払督促に対する異議申し立て

支払督促は、債権者が提出した申立書だけを審査し、債務者の言い分を聞くことなく発せられます。

 

そのため、債務者の利益を保護するために異議の申し立てができる機会を与える必要があります。

 

もし、債務者から督促異議が申し立てられると、督促手続きは通常訴訟に移行し、口頭弁論を開いて審理され、これにより債務者の利益が保護されます。

 

なお、債務者に仮執行宣言の前と後の2回にわたり、督促異議の申し立てをする機会が与えられています。

 

では、まず、仮執行宣言前の異議の申し立てについてみていきます。

 

宣言前の異議は、債務者に対して、支払督促が送達されてから支払督促が失効するまでの間にしなければいけません。

 

もし、債権者から仮執行宣言の申し立てがなければ、支払督促が債務者に送達されてから44日間は異議を申し立てることができます。

 

これに対し、宣言後の異議は、債務者に仮執行宣言付支払督促が送達されてから14日以内にする必要があります。

 

なお、督促異議の申し立ては書面でおこないますが、FAXでの提出はできず、郵送によることになります。

 

実務上は、債務者に送達される支払督促もしくは仮執行宣言付支払督促と一緒に定型の督促異議申立書が同封されているので、その用紙を裁判所に返送すればよいことになります。

 

ここで注意を要するのは、仮執行宣言の前と後で督促異議の効果が異なるという点です。

 

つまり、宣言前の督促異議であれば、その支払督促は督促異議の範囲内で効力を失いますが、宣言後の督促異議は、その支払督促の確定を遮断させる効力はありますが、執行力を停止することはできないというところです。

 

言い換えれば、宣言後に債務者が督促異議を申し立てても、執行力を停止させることはできないので、債権者は支払督促の確定を待たずして、債務者に対して強制執行をすることができるというわけです。

 

なお、督促異議の申し立てにより、通常の訴訟へ移行することになりますが、その際は事物管轄の規定に従って、訴額が140万円以下であれば簡易裁判所へ、140万円超であれば地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます。

 

また、通常訴訟に移行した後に債務者が督促異議の申し立てを取り下げることができるかどうかが問題となりますが、実務上は認められています。

 

つまり、仮執行宣言前の督促異議により、支払督促が失効した後でも、債務者が督促異議を取り下げれば、支払督促が復活するということです。

 

なぜなら、債権者としてみれば、支払督促が復活すれば、簡易迅速に債務名義を取得でき、それは支払督促制度の趣旨に合致するからです。

 

なお、仮執行宣言前の督促異議の取り下げであれば、支払督促は復活するので、債権者は債務者に対する支払督促が送達されてから2週間を経過していれば、仮執行宣言の申し立てをすることができるようになります。

 

宣言後の督促異議の取り下げの場合は、それにより仮執行宣言付支払督促確定を遮断する効果が生じなかったことになります。

 

また、督促異議の取り下げについては、宣言の前後を問わず、債権者の同意は不要です。

 

督促異議後は、通常訴訟に移行しますが、宣言後の異議では仮執行宣言付支払督促は失効しないので、通常訴訟に移行した終局判決において、仮執行宣言付支払督促の取り消し、変更または認可の宣言をすることになります。

 

もし、取消しもしくは変更判決であれば、当該判決が新たな債務名義になりますが、認可判決であれば従前の仮執行宣言付支払督促がそのまま債務名義として残ります。

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