民事保全と財産分与における保全処分
民事保全とは、民事保全法によって規定されている以下の総称のことです。
1. 仮差押え
2. 仮処分
仮差押えは、債権者が将来の金銭債権の実現を確保するために、債務者の責任財産の現状を維持するものです。
要するに、債権者が金銭債権の実現を得るためには裁判で判決を得て、それに基づき債務者に強制執行する必要がありますが、実際にそこまで至るには相当の日数を要します。
その間に、債務者が財産を処分してしまうと、債権者はせっかく判決を取っても強制執行ができなくなってしまうので、将来の強制執行を確保しておくために、債務者に財産を処分させないようにするのが仮差押えというわけです。
次に、仮処分ですが、これは以下の2つに分類されます。
1. 係争物に関する仮処分
2. 仮の地位を定める仮処分
係争物に関する仮処分も、仮差押えと同様、将来の強制執行を保全するためにおこなうものですが、仮差押えが金銭債権を目的としているのに対して、係争物に関する仮処分は、特定物に対する引渡請求権等を保全の目的としています。
例えば、建物の明渡請求権を保全するために、その占有状態を固定しておく必要がある場合や、将来の所有権移転登記請求権を保全するために、所有権の登記名義を現状のままに固定しておく場合等です。
これに対し、仮の地位を定める仮処分は、仮差押えや仮の地位を定める仮処分のように、将来の強制執行を保全するものではなく、現時点で債権者に生じている著しい損害もしくは急迫な危険を避けるために暫定的な措置をするものです。
例えば、会社を解雇されてしまったサラリーマンが解雇を無効として復職を求める場合、結果が出るまでには1年近くかかることも珍しありませんが、それだとその間の生活に支障をきたします。
よって、まずは賃金仮払いの仮処分を求めるのが一般的です。
以上をまとめると
仮差押え ⇒ 金銭債権の将来の強制執行を保全するのが目的
係争物に関する仮処分 ⇒ 非金銭債権の将来の強制執行を保全するのが目的
仮の地位を定める仮処分 ⇒ 権利の現在の満足状態を作るのが目的
となります。
保全命令及び保全執行の大まかな流れは以下のとおりです。
1. 申立書の提出
2. 審理
※一般的には当事者(主に債権者)の意見を聞く審尋があります。
3. 担保決定と告知
※保全命令を出すのが相当と判断されると、担保の内容、額、担保を提供する期間が裁判所から口頭で告知されます。
4. 担保の提供
※債権者は、担保決定に従い、お金を法務局に供託する等の方法で担保の提供をします。
5. 発令
※債権者には保全命令正本が送達され、通常、債務者には執行後に正本が送達されます。
6. 執行
※執行方法は執行をおこなう対象ごとに異なります。
債務者は、保全命令に対し、以下のとおり2つの種類の不服を申し立てることができます。
1. 保全異議
2. 保全取消し
保全異議は、保全命令について、そもそも被保全権利がないとか、被保全権利はあるが保全の必要性まではないという理由で保全命令を争う手続きです。
これに対し、保全取消しは、以下の取消事由によってなされます。
1. 債権者が本案訴訟を提起しない(本案不起訴)
2. 発令後に被保全権利もしくは保全の必要性がなくなった(事情変更)
3. 保全命令によって、償うことができない損害が生じる恐れがある(特別事情)
なお、債権者が保全命令を取得したにもかかわらず、いつまでも本案の提起がされないと債務者にとって不利益となるので、債務者から債権者に対して、本案の訴えを提起するよう求めることができ、債権者は、一定の期間内に訴えを提起したことを証明しないと、上記の保全取消しの対象になります。
話は変わりますが、不動産をくれるというから協議離婚をしようと思ったのに、なかなか夫が所有権の移転登記をしてくれない場合があります。
こういった離婚に際して不動産を夫から妻へ譲渡する場合、離婚後の扶養や婚姻中に得た夫婦の実質的な共有財産を清算するという性質、さらには慰謝料的な意味あいが含まれている場合があります。
財産分与の請求自体は、離婚後2年以内であれば請求できますが、一旦離婚が成立してしまうとなかなか約束どおり譲渡してもらえないこともあるので、極力、離婚と同時に財産分与をおこなうべきです。
こういった場合、家庭裁判所に離婚の調停を申し立てて、それと合わせて財産分与請求の調停をおこないます。
もし、調停が不成立になってしまった場合は、離婚訴訟を起こしますが、財産分与に関する処分は附帯処分についての裁判として、訴訟において離婚と一括して処理されることになります。
しかし、実際に裁判となると、各手続きが終了するまでに相当の年月がかかってしまいます。
その場合に、夫の気が変わったり、第三者に処分してしまうと、裁判で財産分与が認められても絵に描いた餅になってしまいます。
そこで、夫が不動産を第三者へ譲渡してしまうおそれが高く、その不動産がなくなると妻が取得すべき財産分与が著しく損なわれるようであれば、夫に対する財産分与請求権に基づき、夫の不動産に対して、処分禁止の仮処分をすることができます。
この仮処分がされると、法務局でその旨の登記がなされ、妻との財産分与の裁判が終わるまでその不動産を第三者に売却したり、担保に入れることができなくなります。
仮に、仮処分に反して、夫が不動産を処分したとしても、妻はその第三者に対する処分を無効として財産分与が確定した暁には、妻のものへと取り戻すことが可能です。
なお、この申し立ては、離婚前であれば離婚調停前ないし調停中においてすることができます。
もし、すでに離婚が成立し、あとは財産分与の問題だけである場合、財産分与請求権の時効離婚成立後2年以内なので、その期間内であれば家庭裁判所に財産分与を求める審判、調停の申し立てができます。
平成23年5月に施行された家事事件手続法により、それまでは審判に移行するまでは保全処分の申し立てができなかったのが調停の申し立てをしていれば、審判に移行する前でも審判前の保全処分の申し立てができるようになりました。
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