口座の差押えと配当と供託

過払い金返還請求の実務では、裁判をしたうえで和解になるケースが大半を占めますが、中には判決を取っても返金に応じない業者もいます。

 

そういった場合に、相手業者の銀行口座等を差し押さえることを強制執行といいますが、これにより判決で確定した金額を回収できる場合があります。

 

銀行口座等を差し押さえるには、執行力のある債務名義の正本と判決が相手業者に送達されたことの証明書と相手業者の資格証明書が必要になります。

 

執行力のある債務名義の正本というのは、確定判決に執行文を付けてもらったもので、裁判所に判決書と執行文付与の申立書というものを提出すれば、判決書の最後に執行文をつけてくれます。

 

以上の書類を添付して債権差押申立書という書類を相手業者の本店所在地を管轄する地方裁判所に提出すると、後日、裁判所から債権差押命令というものが送られてきます。

 

しかし、これだけでは実際に銀行口座を差し押さえた結果がどうだったのかが分かりませんので、差押申立書を提出するときに第三債務者である銀行に対する陳述催告の申立書というものを同封しておきます。

 

これを同封すると、後日、銀行から回答書が送られてきて、口座を差し押さえた結果がどうだったのかがわかるわけです。

 

そして、差押えの結果、他の債権者の競合もなく、全額の差押えに成功した場合ですが、差押命令が債務者である相手業者に送達されてから1週間を経過すれば、銀行に対して取立権を行使することができます。

 

具体的に、銀行からどうやってお金を払ってもらうかですが、これについては民事執行法上にも特別の定めがないので、直接、銀行に連絡をして支払方法について確認してみることになりますが、銀行の場合は振込みによる支払いが一般的です。

 

無事に、銀行から差押債権額全額の振込みをしてもらったら、裁判所に取立届という書類を提出しなければならず、この取立届出が提出されると裁判所は事件完了の手続きを取ります。

 

以上が、差押が競合しなかった場合の手続きの概略ですが、もし、他の債権者の差押えと競合すると、配当の手続きに移行するので手続き的に面倒となります。

 

なお、近年は銀行口座を差押しても空振りに終わることも多く、差押えが功を奏さないケースが増えてきています。

 

いまだに貸付業務をおこなっているところであれば、口座を差し押さえられると業務に支障が出るため、嫌がるところもあります。

 

とはいえ、どこの口座にどのくらいのお金があるかどうかについては、差し押さえる側にはわからないことなので、実際に差押えしてみないとうまくいくかどうかは分かりません。

 

よって、判決を取っても返金に応じないような業者に対しては、口座の差押えというのも一つの選択肢になります。

 

これに対して、口座を差し押さえてもまったく回収できないような業者も少なくありません。

 

こういった業者については、差押えされることを想定して、意図的に差し押さえが困難な場所に資金を移動しているものと思われ、今後の過払い金回収の課題といえます。

なお、債権差押命令の送達により、第三債務者は債務者に被差押債権を支払うことができなくなりますが、第三債務者からすれば差押命令により、支払いの相手方がそれまで取引関係のない者になれば信用上の問題等により、差押債権者への支払いをできることなら避けたい場合もあります。

 

そのような場合に、第三債務者は供託という手段を取ることもでき、これを権利供託と呼んでいます。

 

なぜ、権利供託を呼ぶかといえば、第三債務者は差押債権者に直接支払ってもよいし、それが嫌であれば供託をしてもよいので、供託するかどうかは第三債務者の判断によって決めることができるからです。

 

一方で、差押命令が競合した場合は、第三債務者は特定の差押債権者に弁済をすることはできず、債権者間の公平を図るために、第三債務者に供託を義務付けていますが、この供託を義務供託といいます。

 

また、第三債務者が供託したときは、その事情を裁判所に届け出なければいけません。

 

最後は、配当等手続きです。

 

差押が競合して、各債権者が配当財団の中から全額の返済を受けることができない場合は配当手続きが実施されます。

 

これに対し、債権者が1人のときや、2人以上でも各債権者が全額の弁済を受けることができるときは、弁済金交付手続が実施されます。

 

つまり、配当手続きと弁済金交付手続きをまとめて配当等手続きと呼び、配当等の対象になる供託金などを配当財団といいます。

 

第三債務者の供託等によって配当財団が形成されると、執行裁判所はその配当財団で各債権者の債権及び執行費用をすべて賄えるかどうかを判断し、すべて弁済できると判断すれば弁済金交付手続きを選択し、すべて弁済できないと判断したときは配当手続きを実施することになります。

 

裁判所が配当手続きを実施する場合、配当期日を決め、配当を受けることになる全債権者と債務者に対して配当期日呼出状を送達します。

 

これに対し、弁済金交付手続きを実施する場合には、裁判所は弁済金交付日を決めて、債権者及び債務者にその旨の通知書を発送します。

 

また、配当手続き、弁済金交付手続きのいずれの場合でも、配当等を受けるべき債権者は、債権計算書を1週間以内に裁判所に提出する必要があります。

 

なお、1週間を経過しても配当を受ける権利を失うことはありません。

 

裁判所は、原則として配当期日に配当を実施しなければいけません。

 

債権者が配当金の支払いを受けるには、配当金の支払請求書に、配当金を受領することができる資格を証明する文書を添えて、裁判所書記官に提出します。

 

書記官は、この請求書と配当表等の記載に基づき、供託金の支払委託書及び配当金受領に関する証明書を作成し、支払委託書を供託書に送付し、債権者には配当等に関する証明書を交付します。

 

債権者は、この証明書を添付して、供託書に供託金の払い渡しを請求し、これにより、現実に配当金を受領することができます。

 

なお、配当金の支払請求をする者は、供託金払渡請求書に実印を押して、印鑑証明書を添付しなければいけません。

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