補欠取締役と権利義務取締役
株式会社では、非公開会社を除き、取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることはできません。
これは、公開会社では、優れた人材を幅広く確保する必要があるからです。
よって、公開会社において、定款で「取締役の資格を持株数100株以上の株主に限定する」等と規定することはできないわけです。
また、株主総会において役員選任の決議をする場合、役員が欠けた場合に備えて補欠の役員を選任することができます。
特定の役員の補欠として選任決議がなされた場合、補欠役員の選任の効力は、被補欠者である当該特定の役員の任期が満了したときに、当然に失われます。
これは、当該補欠の役員が就任の条件を満たすことができなくなるからです。
もし、補欠の役員が役員に就任した場合、この役員の任期は補欠として選任された日から起算されます。
よって、選任日から起算して補欠の対象となる役員の任期を超えたときは、補欠の役員としての選任の効力はなくなります。
では、補欠の役員が就任するケースをもう少し詳しくみていきます。
なお、会社法で規定している補欠の役員の選任の効力が発生するケースは以下のとおりです。
1. 役員が欠けた場合
2. 会社法もしくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなる場合
1.の役員が欠けた場合とは、当該役員が1人もいなくなった場合です。
2.の会社法で定めた役員の員数が欠けた場合とは、同法で最低員数が決められている役員について、同法の最低員数を欠くことになった場合です。
例えば、取締役会設置会社で、取締役の員数が3名を欠いた場合などが典型例です。
定款で定めた役員の員数が欠けた場合とは、定款で会社法上の最低員数以上の最低員数を定めた場合に、当該定款上の最低員数を欠くことになった場合です。
例えば、取締役の員数を定款で4名以上と定めている会社で、取締役の員数が4名を欠いた場合などです。
補欠の役員として選任された者が正規の役員に就任した場合、当該役員の任期については、補欠の役員としての選任決議の時点を起算点とします。
よって、正規の役員として就任したときではないので、補欠の取締役の任期の起算点は就任日ではなく選任日となります。
補欠取締役や取締役の員数を増加させるため、新たに選任された取締役の任期は、原則として通常の取締役と同じです。
しかし、補欠取締役や増員取締役の任期を、他の取締役と同時に満了させるために、定款で
「補欠または増員により選任された取締役の任期は、他の取締役の任期の残存期間と同一とする」
と定めることは可能で、実務上はこういった規定が入っていることが多いです。
会社法では、取締役が欠けた場合、または会社法もしくは定款で定めた取締役の員数が欠けた場合には、任期満了または辞任により退任した取締役は、新たに選任された取締役が就任するまで、なお取締役としての権利義務を有すると定めており、これを権利義務を有する取締役といいます。
この規定により、権利義務を有している者の退任の登記のみの申請は受理されず、権利義務を有する者の一部の者から退任の登記申請があった場合、仮に、取締役の員数を欠くことにならなくても受理されません。
なお、権利義務を有する取締役となる退任事由は任期満了と辞任に限られます。
つまり、退任事由が解任、死亡、欠格事由である場合には適用はありません。
取締役が解任された場合は、その者と会社もしくは株主との信頼関係は失われており、欠格事由の場合は、その者に取締役の職務を遂行させるのが好ましくないからです。
反面、任期満了や辞任であれば、信頼関係が壊れたわけではなく、引き続き取締役として職務をさせても問題ないからです。
よって、取締役が死亡、解任、欠格事由に該当した場合は、会社法や定款で定めた員数を欠いても、退任の登記申請は受理されるわけです。
権利義務を有する取締役は、新たな取締役が就任し、会社法や定款で定めた員数を満たすことで退任登記が受理されますが、その退任日は、あくまでも任期満了もしくは辞任をした日であって、後任の取締役が就任した日ではありません。
もし、後任者が就任したとしても、なお、会社法もしくは定款で定めた員数を満たすことができない場合は、後任者の就任登記は受理されますが、権利義務を有する取締役の退任登記は受理されません。
このため、場合によっては、権利義務を有する取締役と、新たに就任した取締役の合計員数が、定款で定めた取締役の員数を超えることもありますが、それについては差し支えないとされています。
なお、権利義務を有する取締役が、その地位を辞任したり、その者を解任することはできません。
これは、権利義務を有する取締役の地位が会社法によって強制されているからで、もし、解任したいのであれば、新たな取締役を選任して員数を満たせばよいからです。
もし、権利義務を有する取締役が死亡もしくは欠格事由に該当した場合は、退任登記をすることができますが、その際の原因年月日は、権利義務を有している間に発生した脂肪や資格喪失の年月日ではなく、それ以前に生じていた任期満了日や辞任日となります。
ただし、この場合の添付書面として、死亡もしくは資格喪失したことが分かる書面が必要になります。
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