法定後見と任意後見の優劣と法人後見

すでに任意後見契約が締結されている場合は、本人の自己決定権を尊重し、原則として、任意後見が優先されます。

 

たとえば、任意後見契約が締結され、その旨が登記されている場合、本人が事理弁識能力が不十分な状態になれば、申立てにより任意後見監督人が選任され、任意後見人が後見事務を開始しますが、すでに本人に後見人等が付いている場合、どちらが優先するかが問題になります。

 

この点については、任意後見法4条が規定しており、上記のような場合はすでになされていた法定後見開始の審判が取り消されることになります。

 

しかし、例外もあり、本人の利益のために特に必要があると認められるのであれば、法定後見の審判はそのままで、逆に任意後見監督人が選任されないこともあり得ます。

 

逆に、すでに任意後見契約が登記されている場合は、原則的に任意後見が優先されるので、法定後見の審判がされることはありませんが、これにも例外があり、本人の利益のために特に必要があると認めるときに限って、法定後見の審判が許され、その場合は、すでに登記されている任意後見契約は当然に終了することになります。

 

以上をみると、本人の自己決定権を尊重するために、原則的には任意後見が優先されるのですが、特に本人の利益のために必要があるのであれば、法定後見が優先されることがあるということになります。

 

では、具体的にはどういった場合であれば、本人の利益のために特に必要があると認められるのかですが、例えば、任意後見契約締結の際に決めた任意後見人の代理権の範囲が極端に限定されていたが、本人のためには、その他の法律行為についても代理権の付与が必要である場合や、本人の法律行為について、代理権のみならず、同意権、取消権が必要であると考えられる場合等です。

 

もちろん、任意後見人に不適当な行為があったり、任意後見人が破産者等の欠格事由に該当した場合は本人の利益を考えて法定後見制度を利用する必要が出てきます。

 

なお、過払い金の請求する際にも、後見人が関与する場合があります。

 

それは、当時お金を借りていた本人が、その後、認知症等の精神障害を患い、後見人が選任されたような場合です。

 

この場合は、後見人が本人を代理して、貸金業者に対して、過払い金を請求することになりますし、後見人が本人の代理人として、司法書士等の専門家と委任契約を締結し、回収を依頼することも考えられます。

 

よって、本人にすでに後見人が付いていて、過去に払い終わったような借金があることが発覚した場合、後見人が本人を代理して不当利得返還請求をおこなうことが可能なわけです。

なお、成年後見人には、自然人だけではなく法人もなることができます。

 

法人後見人のメリットは主に以下の2つです。

 

1. 組織力

 

2. 長期の職務執行

 

法人後見人といっても、実際にその職務行為をおこなうのは、その法人で働く自然人に他なりません。

 

法人で働いている従業員は、一つの組織の元で働いているので、統一された意思の下で相互に協力しながら動くので、被後見人の財産が複雑多岐にわたっているような場合でも、組織化された複数の力を合わせることで対応することが可能です。

 

また、個人の後見人では避けられない後見人の病気や死亡が、法人にはないという点です。

 

個人の後見人が病気にかかれば、それだけ後見業務に支障が出る恐れがありますし、万が一、死亡してしまうと、新たな後見人を裁判所に選任してもらう必要があります。

 

これに対し、法人後見人の場合、担当者が病気や死亡しても、別の担当者に交代することで、その後の職務執行が可能です。

 

よって、法人が解散するような特別の事情がない限りは、自然人より安定して長期の後見業務が可能となります。

 

この法人後見人になるための資格ですが、特に要件や資格はありません。

 

ただし、法人後見の適格性として、その法人の事業目的が成年後見業務をおこなうことであり、さらに、成年後見制度の趣旨から身上監護と財産管理の双方をおこなうことが事業の目的となっている必要があります。

 

また、法人の資産状況が、成年後見業務を今後継続的におこなうことができる状態である必要があるので、たとえば、債務超過である会社や休眠会社や資本金の制限がなくなった関係で設立することができるようになったいわゆる1円会社やベンチャー企業等は法人後見の適格性をクリアーすることは困難と思われます。

 

実務上は、司法書士が設立した公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート、社会福祉協議会等が就任することが多いです。

 

もし、本人の入居先の施設が、本人の法人後見人になるような場合、施設入所契約や各種介護サービス契約を締結が利益相反となります。

 

よって、このような施設が法人後見人になると、本人を介護するという本来の目的が達成されなくなる恐れがあり、利益相反に該当するような場合は、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらう必要がある等の不都合が生じるのでお勧めできません。

 

また、法人後見の課題としては、その法人後見人が解任をされるような事態になると、それ以後は成年後見人等に就任することができなくなるので、解任を恐れる法人側が後見人の就任に慎重になり、法人後見の利用が硬直化する懸念があるという点です。

なお、千葉いなげ司法書士事務所の司法書士も個人で後見人に就任しているので、親族に適当な人材がいない場合はお気軽にご相談ください。

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