保証債務や預貯金の相続と遺言執行者について
銀行預金については、最高裁が「相続開始と同時に当然に各相続人に各相続分の割合で分割され承継される」との判断を下しています。
しかし、銀行とすれば、相続人が何人いて相続分がどのくらいになるのかを把握する必要があります。
そのため、銀行の実務では、上記の最高裁判例にもかかわらず、相続人全員の遺産分割協議書を要求し、相続人からの単独の払い戻しには応じません。
つまり、銀行から払い戻しを受けるには
1. 遺産分割協議書(相続人全員の実印付)
2. 相続人全員の印鑑証明書
3. 相続人全員の住民票
4. 亡くなった方の15歳頃からのすべて戸籍(除籍)
5. 各相続人の現在の戸籍
これらはすべて原本が必要になることが多いです。
あとは、各銀行ごとに備え付けの用紙に記入する必要がありますので事前に確認したほうがよいでしょう。
ところで、借金などの債務、つまりマイナスの財産は遺産分割の対象になるのでしょうか。
たとえば、100万円の借金がある方が亡くなったとします。
相続人はその配偶者と子の合計2人とします。
借金が遺産分割の対象になるとすると、相続人2人の間で、100万円の借金すべてを配偶者が相続するといった合意ができることになります。
この点、学説上は色々な議論があるようですが、裁判例はほぼ消極的になっています。
つまり、被相続人の債務は遺産分割の対象とはならないということです。
もう少し詳しくいえば、
1. 遺産分割の対象となるのは、プラスの財産(不動産や預貯金など)のみ
2. 借金のようなマイナスの財産は、相続開始と同時に共同相続人にその相続分に応じて分割承継される
となります。
なお、マイナスがプラスよりも大きい場合は、相続放棄できますのでご安心下さい。
また、保証債務の相続についてですが、亡くなった夫(A)が1000万円の連帯保証債務を負っていたとします。
この場合、夫の相続人が、その妻(B)と二人の子(CとD)の合計3人だとします。
夫であるA自身は、債務者ではないのですが、連帯保証債務を負ったまま亡くなった以上、その相続人であるB、C、Dの3人は亡きAの連帯保証債務を相続します。
この場合、相続分はBが4分の2、CとDは各4分の1なので、
B⇒500万円
C⇒250万円
D⇒250万円
の連帯保証債務を相続することになります。
なお、B、C、Dの3人の間で、「1000万円の連帯保証債務をBだけが負う」といった取り決めをしても、債権者には通用しませんのでご注意下さい。
よって、借金以外のプラスの財産(不動産や預貯金など)をBのみが相続し、CとDはなにもプラスの財産をもらわないのであれば、
CとDはAの死亡後3カ月以内に家庭裁判所に相続放棄を申請しておいた方が安全といえます。
なお、滅多にあることではありませんが、原告として裁判をしていた夫が裁判中に亡くなってしまった場合、この裁判はどうなるのでしょうか。
仮に、相続人が妻のみだとします。
相続人は、相続放棄をしない限り、被相続人(亡くなった方)の権利義務一切を承継します。
よって、今回のような裁判中の場合でも、相続放棄をしない限り、相続人である妻は裁判を引き継ぎます。
具体的には、裁判所に相続人である妻が裁判を受け継ぐということを知らせる必要があります。
これを、受継の申立てといいます。
受継の申立ての際は、自分が相続人であることを証明するために、裁判所に戸籍謄本を提出する必要があります。
なお、受継の申立てではありませんが、最近見受けられるケースは、「亡くなった夫に借金があったが、よくよく調べてみると過払いだった」というケースです。
この場合、相続人である妻は、亡夫の過払い金を相続しますので、妻が原告となって過払い金返還訴訟を起こすことになります。
このように、基本的には裁判も相続の対象になるわけです。
話はガラッと変わって、秘密証書遺言のお話です。
今日は、作成方法をご説明します。
秘密証書遺言は公証人に作成してもらいますが、主な手順は以下のとおりです。
1. 遺言書を作成し、これに署名・押印する
2. 自分でその遺言書を封紙に封入し、遺言書に押した印で封印する
3. その封書を公証人及び証人2人以上の前に提出し、自己の遺言書であること及び住所・氏名を述べる
4. 公証人が遺言書の提出された日付及び遺言者の述べたことを封紙に記載し、遺言者、証人及び公証人が封紙に署名・押印する
なお、公正証書遺言では、遺言書自体は公証人役場に保管されますが、秘密証書遺言では、公証人役場には遺言をしたことが記録されるだけで、遺言書の保管は遺言者自身がおこないます。
また、自筆証書遺言と違い、遺言書自体は自筆である必要はなく、代筆やパソコンを利用して作成したものでもOKです。
このように、秘密証書遺言は、遺言の内容は秘密にしたいけど、その存在を確かなものにしたい場合に便利な手続です。
なお、遺言を作成できる年齢ですが、未成年のうちから遺言を書こうと思う人は現実的にはほとんどいないと思います。
とはいえ、法的には何歳から遺言を書くことができるのかはほとんど知られていません。
この点、民法では15歳から遺言をすることができると定めています。
反面、近年の日本は、超高齢化社会に突入しているため、高齢者の作成する遺言書が増えてきています。
そのため、遺言の有効性について争いになるケースも増えてきます。
この点、認知症などにより家庭裁判所から成年後見人を選任されている場合、その被成年後見人(成年後見の対象になっている本人)が遺言をすることができるかが問題となります。
認知症等の精神障害者は原則的に有効な遺言を作成することはできませんが、
1. 事理を弁識する能力を能力を一時回復したときに、
2. 医師2人以上の立会いがあれば、
遺言をすることができると定められています。
よって、未成年者であっても15歳以上であれば、また、被成年後見人であっても上記2点を満たしている限りは、遺言をすることができるということになります。
もし、遺言書が残されている場合、遺言に書かれたことをきちんと実行する必要があります。
遺言書の内容を実行する人は、
遺言執行者もしくは相続人となります。
あらかじめ遺言書の中で遺言執行者が指定されている場合もあります。
遺言書で指定されていなければ家庭裁判所に選んでもらうこともできます。
なお、遺言執行者に選ばれるのは、相続人の中の1人であることが多いですが、弁護士等の専門家が選ばれることもあります。
また、遺言執行者は必ずしも1人である必要はなく、複数でもOKです。
遺言執行者の仕事は、
1. 相続が開始したことを相続人に通知する
2. 相続財産の目録の作成
3. 遺言に基づいた財産の名義変更
などです。
もちろん、遺言執行者を選任しなくても構いませんが、円滑な進行を望むのであれば、選任しておいた方が無難と思います。
次は養子の話です。
養子になったA子さん。
養親が亡くなった場合、A子さんがその相続人になるのは当然ですが、生み親が亡くなった場合にも養子になったA子さんは相続人になれるのでしょうか?
この点、A子さんが新たに養親の子になったことで、生みの親の相続人にはなれないと誤解されている方もいますが、A子さんは、
1. 養親の相続人
2. 生みの親の相続人
のいずれの相続人にもなります。
反面、特別養子になった場合は、生みの親が亡くなっても相続人にはなれません。
なお、「特別養子」の要件は主に以下のとおりです。
1. 養子になる子が6歳未満
2. 養親になる夫婦の双方が20歳以上で、その一方が25歳以上
3. 養子になる両親の同意が必要
4. 家庭裁判所に請求する
つまり、特別養子は、生みの親との親族関係を終了させるので、相続人もなれないということです。
最後は相続登記のお見積もりの話です。
土地や建物の所有者がお亡くなりになられると、名義変更をする必要がありますが、これを相続登記といいます。
相続登記は、ご自分でできないことはないのですが、やはり初めての方にはハードルが高いと思います。
そのため、一般的には相続登記を司法書士に依頼するケースがほとんどです。
当事務所でも相続登記のお見積もりをお願いされることがよくあります。
見積もりを出すのに、必要なものは主に以下のとおりです。
1. 登記事項証明書
2. 固定資産税評価証明書
1.は昔でいう「登記簿謄本」で、法務局で取得できます。
今では法務局がコンピュータでつながっているので、その不動産を管轄する法務局以外でも登記事項証明書は取得できます。
よって、自宅が東京で、名義変更の対象となる不動産が大阪であっても、自宅近くの東京の法務局で大阪の不動産の登記事項証明書が取得できます。
2.がなぜ必要かというと、相続登記を申請する際に、不動産の評価額の1000分の4を税金として納めるからです。
たとえば、評価証明書の金額が1000万円とすると、4万円が登録免許税となります。
税金以外の事務所の報酬は事案の複雑さ等により、かなり異なりますが、一般的なケースであれば6~8万円になることが多いです。
ただし、より詳しい見積もりを出すには上記2点が必要となりますのでご了承下さい。
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