遺言執行者にならないという選択

知人の遺言書で自分が遺言執行者に指名されていたが、その知人の相続人の間ではいわゆる争族トラブルが発生しているので、遺言執行者に就任してトラブルに巻き込まれたくない・・・とします。

 

そもそも、遺言書の中で遺言執行者に指名されていたとしても、その者が遺言執行者に就任するかどうかは自由です。

 

つまり、遺言書による遺言執行者の指定には法的な拘束力はありませんので、遺言執行者を引き受けたくないような事情があるのであれば、就任を拒否することができます。

 

もし、一旦就任してしまった後でも、家庭裁判所の許可を得るという条件付きではありますが、遺言執行者を辞任することができます。

 

なぜ、遺言執行者に就任するかどうかの自由があるかという点ですが、これについては遺言者が遺言執行者を指定するに際して、事前の同意を得ることを要件としていないので、それとの対応上、遺言執行者に就任する自由を与えるのは当然だからです。

 

よって、遺言書で遺言執行者に指名された者は、生前における遺言者や相続人との人間関係等を綜合的に考慮した上で就任するかどうかを早い段階で決定し、その結果を速やかに相続人に通知する必要があります。

 

この場合の通知ですが、たとえ相続人が複数名いても、当該遺言に最も関係のある相続人1名に対してすればよいとされています。

 

なぜなら、公正証書を除く自筆証書遺言等は、家庭裁判所の検認手続きを経ているので、各相続人は遺言書の内容や遺言執行者が指定されている事実を知っているのが原則だからです。

 

これに対して、公正証書遺言の場合は、公証人の関与により、その他の遺言のように家庭裁判所での検認手続きが不要とされているので、遺言執行者の就任の諾否に関する通知は、その相続人全員に対して行わなければいけないとされています。

 

相続人としては、遺言執行者が就任の諾否を明らかにしない場合には、就任するのかしないのかについて、一定の期間内に回答するように催告することができるとされています。

 

もし、遺言執行者が回答期間内に就職の諾否を明らかにしない場合には、就任を拒否したものとみなされるのではなく、承諾したものとみなされるので、拒否したい場合は催告に無視するのではなく、就任を拒否する明確な意思表示をしておかなければいけません。

 

仮に、就任を承諾したものとみなされてしまうと、勝手に辞任することはできず、すでに述べたとおり、家庭裁判所の許可を得なければ辞任できなくなりますので要注意です。

 

条文上は、辞任には正当な事由が必要とされていますが、具体的には高齢や病気を理由したり、通常の仕事が忙しくて執行業務をおこなっている時間がない場合等は、辞任が認められているようです。

 

これに対し、単に相続人間で揉めているから、それに巻き込まれたくないという理由だと、正当な事由と認められない可能性もあります。

 

よって、そのような場合は、正式に就任をする前の段階で就任を拒否しておくべきといえます。

 

なお、遺言執行者も報酬を請求することができ、その額は遺言書であらかじめ決められていれば、それに従い、決められていない場合でも、遺言執行者から家庭裁判所に報酬付与の申し立てをすることができます。

 

具体的な額については、裁判所が執行業務の量や複雑さ等を総合的に考慮して決定します。

 

いずれにせよ、遺言執行者への就任は慎重に決めた方がよいと思います。

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