家庭裁判所への相続放棄と事実上の相続放棄の違い
当事務所でも相続放棄のご相談を受けることがありますが、ここでいう相続放棄というのは単にプラスの財産をもらわないという意味での相続放棄ではありません。
これはどういうことかといいますと、被相続人にプラスの財産しかなく、借金等のマイナスの財産が一切ない場合、
そのプラスの財産を相続人の間でどのように分けるかを話し合うことがあり、これを遺産分割協議といいます。
この遺産分割協議の際に、ある相続人が「私はなにもいらない」と言って、被相続人の遺産をなにも相続しないことがあります。
その場合、この相続人を含めた相続人全員が遺産分割協議書に署名押印するのですが、これは民法上の相続放棄とは異なります。
こういったプラスの財産を一切もらわないという行為は、あくまでも遺産分割協議の一つの態様でしかなく、
遺産を一切もらわなかった相続人であっても相続人であることは変わりありません。
これに対して、民法上の相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったことになります。
初めから相続人ではなかったことになると、どういった効果が生じるかですが、これについては被相続人に借金があった場合が分かりやすいです。
民法上の相続放棄をすると、初めから相続人でなかったことになりますので、たとえ被相続人に借金があっても、そういったマイナスの財産を含めて、一切相続することはありません。
これに対して、遺産分割協議でプラスの財産だけをもらわないといっただけで、家庭裁判所への相続放棄をしていない相続人は、
もし、マイナスの財産があれば相続人であることに変わりはないので、借金を相続してしまうことになります。
ここで注意をしなければいけないのは、たとえ相続人の間で特定の相続人にだけ借金を背負ってもらうという合意をしても、その合意を債権者に主張することはできないというところです。
つまり、借金については、たとえ相続人間の話し合いで特定の相続人に負担させても、債権者がその合意に応じなければ、法定相続分どおりに相続人に引き継がれてしまうということです。
正式に家庭裁判所に相続放棄の申し立てがあると、本人の真意に基づいた申立であるかどうか等を確認します。
なお、相続放棄申述受理の審判は、その審判によって有効・無効を終局的に確定するものではありませんので、
後になって被相続人の債権者等の利害関係人から無効の主張をすることは可能です。
ところで、未成年の子に代わって、親権者である親が相続放棄をすることができるかどうかについては、
親が子よりも先に放棄するか、もしくは同時に放棄する場合であれば代理で未成年の子の放棄も可能とされています。
これに対し、親が放棄しないで未成年の子だけ放棄させる場合には、家庭裁判所で特別代理人を選任しなければいけないとされています。
なぜなら、親と未成年の子の利益が相反する場合は、親権者である親の代理権および同意権が制限され、
家庭裁判所の選任した特別代理人にこれらの権利を行使させる必要があるからです。
なお、不動産の相続登記の際に相続放棄者がいる場合、その登記原因証明情報には通常の戸籍謄本等の他に、
家庭裁判所の相続放棄申述受理証明書を提出する必要があります。
これは、同順位の相続人の中に相続放棄者がいる場合のみならず、第1順位の相続人全員が相続放棄をしたため、第2順位の相続人が相続人になる場合も同様です。
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