非協力的な相続人がいる場合の遺言の実行

相続人間で特に揉め事がないのであれば、遺言書どおりに遺産の名義変更をすることはそれほど難しいことではありません。

しかし、正妻の他に内縁の妻がいるケースで、亡くなった夫が遺言書で内縁の妻に特定の不動産を遺贈(遺言で贈与する)しているような場合、内縁の妻としてはせっかくそのような遺言があっても、その不動産の権利証を正妻が握っているとなればどのようにして名義を変更すればよいのでしょうか。

なお、不動産が遺贈された場合、遺言者の死亡と同時に受遺者である内縁の妻に所有権が移転します。

とはいえ、現実的に当該不動産を内縁の妻が自由に処分等をするには、遺言が効力を発生した後、すなわち遺言が亡くなった後に、当該不動産の名義を遺言者から内縁の妻名義に変更し、不動産の引渡しも受けなければいけません。

では、実際にどのように名義を変更すればよいかですが、遺言書の中で遺言執行者が指定されている場合は、内縁の妻と遺言執行者が共同して名義変更の手続きをすることができます。

なぜ、遺言執行者のような制度があるかといえば、相続人に遺言の執行を任せると、中には非協力的な相続人もいて適切な執行の期待ができないからです。

そして、遺言執行者が選任されている場合、相続人は相続財産の処分、その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないとされています。

よって、遺言書で遺言執行者が選任されておらず、相続人が遺言の執行に非協力的な場合は、利害関係人(相続人、受遺者など)は、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることができます。

裁判所の管轄は、亡くなった被相続人の住所地の家庭裁判所です。

添付書類は、遺言書の他に申立人、遺言者、遺言執行者候補者の各戸籍謄本、候補者の住民票などです。

家庭裁判所の手続きは非公開で、申立人などから事情を聴いたり、遺言執行者候補者から意見を聴いたりします。

その上で、家庭裁判所が遺言の内容、遺言執行の難易度等を考慮した上で、適当な遺言執行者を選任します。

よって、必ずしも申立人が希望する候補者がそのまま遺言執行者に選任されるわけではありません。

なお、当事務所では千葉近郊の案件であれば、遺言執行者選任申立書類の作成代行をおこなっておりますのでお気軽にご相談ください。

もちろん、当事務所所属の司法書士が遺言執行者に就任することも可能です。

なお、遺言執行者になるには特に資格が必要なわけではありませんが、未成年者と破産者以外であれば、基本的に誰でもなることができます。

今回のケースでは、正妻が名義変更の手続きに協力しない場合は、遺言執行者が正妻に対して、権利証の引き渡しを求めたり、内縁の妻との共同申請によって遺贈の登記手続きをすることができます。

ところで、正妻が勝手に相続人名義に変更した上で、当該不動産を第三者に売却してその旨の名義変更登記をしてしまった場合はどうなるのでしょうか。

こういった場合の考えには諸説ありますが、判例ではこのような相続人の譲渡は絶対無効と判断しています。

また、正妻が勝手に第三者に売却してしまった場合でも、遺言執行者がいれば、違法な登記がされたとして遺言執行者が抹消登記請求権を行使することも可能です。

これに対して、遺言執行者がいない場合、受遺者が第三者に当該不動産の所有権を主張するには、遺贈を原因とする名義変更登記がされていなければいけません。

もし、相続開始後に、正妻が第三者に当該不動産を売却してしまった場合、内縁の妻と第三者のどちらが所有権を主張することができるかは、その登記の先後によります。

よって、第三者が先に登記をしてしまうと、受遺者である内縁の妻は、第三者から当該不動産を取り戻すことはできませんが、正妻に対して、損害賠償請求することは可能です。

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