判決による登記手続き
過払い金請求では、裁判を起こしたうえで和解するケースが大半を占めていますが、これは裁判をしないと相手業者の和解提案の条件が著しく悪いからです。
そのため、まずは裁判を起こしたうえでないと、まともな条件を提示してこないことがほとんどなので、実務上は裁判所を利用したうえで和解しているケースが非常に多いです。
中には、裁判をしても和解にならないこともありますが、そういった場合は最終的に裁判所で判決をもらうことになりますが、これが不動産登記にどのような影響があるのかをみていきたいと思います。
判決に基づいて所有権移転登記等をするには、判決書正本のみならず、その判決の確定証明書も必要になります。
では、もし、判決書の中に記載されている不動産の表示に誤りがあると、判決書正本および確定証明書の他に、更正決定がされたことを証する書面とそれに関する確定証明書も必要になります。
これは、更正決定には即時抗告が認められており、即時抗告がされると裁判の失効停止の効力が生じるため、更正決定に関する確定証明書も要求されるからです。
なお、A名義でされた相続登記のB名義への更正登記手続きを命ずる判決がされたとしても、更正の前後で同一性がないので、Bはこれに基づいて単独で相続登記の更正登記を申請することはできないとされています。
次は、実体上の所有者と登記上の所有者が異なる場合です。
例えば、実体上はAが所有者であるにもかかわらず、登記上B名義で所有権保存登記がされている場合をみていきます。
この場合、Aが当該建物の所有者であることを確認する判決を得たときに、その判決に基づき、Aが単独でB名義の所有権保存登記を抹消することができるかどうかが問題となります。
この点については、判決により登記を申請する場合には、その判決は登記手続きを命じる給付判決でなければいけないので、たとえ判決の中で所有者がAであることが確認されていても、Aは単独でB名義の所有権保存登記を抹消することはできないとされています。
よって、判決によって単独で登記を申請したいのであれば、必ず給付判決をもらわなければならず、確認判決や形成判決ではダメです。
これは、確定の給付判決によって、共同して登記申請すべき一方当事者の登記申請の意思表示を擬制するものであるからで、付随的申立てとして仮執行宣言を申し立てることもできません。
そして、確定判決がそのまま登記原因証明情報になるので、訴状の請求の趣旨の記載には十分に注意する必要があります。
また、所有権移転登記に必要な書類を交付する旨が記載されているにすぎない判決では、単独で登記申請することはできません。
次は、抵当権の順位変更の場合です。
例えば、1番抵当権者A、2番抵当権者B、3番抵当権者Cの三者間で順位変更をしようとしたにもかかわらず、Bは登記申請に応じてくれるのに、Cが登記手続きに協力しない場合です。
この場合、Aは協力してくれないCのみを被告として、順位変更の登記手続きを命ずる判決を得れば、Bとともに順位変更の登記を申請することができるのかどうかがポイントですが、この点についてはBは協力してくれるのであるから、被告にする必要はなく、協力してくれないCのみを被告として判決を取得すればよいとされています。
次の事例は、Aの単独名義で所有権の登記がされている不動産について、BとCが「Aは、BCに対し、年月日売買を登記原因として、B持分2分の1、C持分2分の1の割合で、所有権移転登記手続きをせよ」との確定判決を得た場合です。
この場合、通常であれば、判決に基づいてBCが登記申請することになりますが、仮に、Cが登記申請に協力しない場合は、Bは単独で自己の持ち分についてのみ、所有権一部移転登記ができるとされています。
そもそも、判決により登記申請するかどうかは登記権利者の任意なので、仮に、Cが登記申請に協力しない場合に、Bの単独申請を認めないと自己の権利を保全することができなくなり、Bが不利益を被ってしまいます。
また、判決によって、Aの意思表示は擬制されているので、登記権利者が複数の場合、その1名からの単独申請が認められているわけです。
そもそも、不動産登記は原則的に権利者と義務者による共同申請によりおこなうものです。
これはどういうことかというと、例えば、不動産を売買した場合、登記権利者は買主、登記義務者は売主となり、買主と売主が共同で法務局に申請します。
もし、司法書士が代理人になっている場合、権利者である買主と義務者である売主の両方の代理人となって申請します。
しかし、当事者間で揉めた結果、裁判所の判決に基づいて不動産を名義変更する場合は例外が認められています。
その例外というのは、権利者による単独申請が認められているという点が一番の特徴です。
上記のように、不動産の登記申請は権利者と義務者による共同申請が原則ですが、判決を取得した場合には義務者の協力が得られる見込みがないので、権利者の単独申請を認めているわけです。
しかし、単独申請を認めるからには、裁判所での判決等が必要です。
そこで、ここでいう判決等にはどのようなものが含まれるかをみていきます。
判決以外にも単独申請が認められているものとして、和解調書、訴え提起前の和解調書、調停調書、家庭裁判所の審判書および調停調書等があります。
これに対して、判決に準ずるものと認められないもので紛らわしいものの代表格に、公証人が作成した公正証書があります。
なぜ、公正証書が紛らしいのかといえば、公証人の作成した公正証書にも一部執行力が認められているものがあるからです。
それは、金銭の一定額の支払いを目的する請求(たとえば、貸金業者の借主に対する貸金請求)です。
つまり、お金の貸し借りに関する書面を公正証書で作成し、その中で強制執行認諾条項というものを定めておけば、貸主は裁判手続きを経ることなく、借主に対して強制執行をすることが可能です。
しかし、公正証書には不動産の請求に対しては執行力を有しませんので、たとえ公正証書であっても、不動産の単独申請はできないというわけです。
なお、判決だからといって、必ずしも単独で不動産の名義変更ができるわけではなく、ちゃんと判決の中で本来は不動産の登記申請を共同でしなければいけない者に対して、一定内容の登記手続きをなすべき旨を命じたもの(これを「給付判決」といいます)でなければいけません。
たとえば、所有権が誰々にあるというのを確認しているに過ぎない確認判決では、登記手続きをなすべき旨を命じていないので、単独申請は認められません。
また、給付判決であっても、ただそれだけでは単独申請は認められず、確定した判決であることが条件です。
これは、判決が確定せずに、控訴(上告)されている可能性もあるからです。
なお、判決が確定したかどうかは、裁判所から確定証明書というものを付けてもらうことでわかりますので、法務局に提出する判決は確定証明書付判決である必要があります。
ところで、通常の金銭債権等の判決に基づく強制執行をする場合には、執行文といって強制執行ができるという証明書を取得する必要がありますが、不動産の登記申請の際に、この執行文を付けなければいけないかどうかが問題となります。
しかし、登記手続きを命じる判決が確定すると、その時に登記申請の意思表示があったものとみなされるので、不動産登記の申請の際には執行文の付与は原則必要ありません。
ただし、例外として以下のような場合には執行文の付与がなされて、初めて登記義務者の意思表示があったものとみなされるので、例外的に執行文の付与が必要となります。
1. 債務者の意思表示が、債権者の証明すべき事実の到来にかかるとき
2. 債務者の意思表示が、反対給付との引換えにかかるとき
3. 債務者の意思表示が、債務の履行その他の債務者の証明すべき事実のないことにかかるとき
1.の具体例として、農地について「県知事の許可があり次第、その所有権移転登記をする」という内容の調停調書に基づき、権利者が単独申請をする場合です。
この場合は、農地法の許可書を裁判所に提出し、執行文の付与を受けなければ、和解調書に基づいて単独申請をすることができません。
2.の具体例は、「甲が乙に1000万円を支払うのと引き換えに、乙は甲に対して、別紙目録の不動産について、平成年月日売買を原因とする所有権移転登記手続きをせよ」といった判決等の場合です。
このような場合、甲は乙に1000万円を支払い、乙の交付した領収等を裁判所に提出して執行文の付与をもらわなければ、甲の単独申請は認められません。
3.は少しわかりにくいですが、例えば「乙が甲に対して、年月日までに1000万円を支払わないときは、乙は甲に対して別紙目録記載の不動産につき所有権移転登記をする」という内容の和解調書の場合です。
この場合、乙が1000万円を支払わなかったことにより、甲は裁判所に執行文の付与を申し立てをし、裁判所は乙に一定期間内に甲に弁済をしたことを証する書面(領収書等)の提出を命じます。
しかし、乙は甲に対して支払いをしていないので裁判所に文書を提出することができないので、提出期間の経過後に裁判所は甲に執行文の付与をするという流れになります。
最後に、法務局に提出する書面についてですが、判決による単独申請の場合は、登記義務者の登記申請は判決で擬制されているので、通常であれば添付しなければいけない登記義務者の登記識別情報(登記済証)と印鑑証明書は不要です。
なお、判決に記載された義務者の現住所が、登記上の住所と異なる場合は、たとえ、判決に登記上の住所が併記されていても住所変更登記を省略することはできません。
よって、住所変更登記をしたうえで、所有権移転登記を申請する必要がありますが、確定判決を得ている場合は、義務者の住所変更登記も権利者が義務者に代位することで単独で申請することができます。
ただし、その場合でも、義務者の住民票が必要になりますが、司法書士に依頼をすれば、職権で義務者の住民票を取得することが可能です。
当事務所でも千葉近郊にお住まいの方や遠方であっても面談が可能であれば、判決による単独申請の代理をお受けすることは可能ですので、お気軽にご相談ください。
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