利息制限法に反する和解の有効性
実際には多額の払い過ぎが発生しているにもかかわらず、貸金業者が顧客に対して取引履歴を開示することもなく、一方的に和解を締結させようとする場合があります。
なぜ、そういった和解をしたがるかといえば、和解書の中に
「清算条項」
が入っているからです。
清算条項とは、たとえば
「甲と乙の間における債権債務は、本和解によって定めるもの以外には存在しないことを確認する」
などといった文言です。
仮に、この清算条項が有効となれば、借主があとから過払い金の存在を知っても、貸金業者に対して請求できないことになります。
現実の裁判でも、こういった清算条項の入った和解の有効性について争われたものがあります。
以下に掲載しておきますので参考にしてください。
参考判決
証拠(乙1)並びに弁論の全趣旨によれば、被告主張のとおりの本件示談が成立したこと及びほぼ本件示談条項に従った原告からの弁済により同条項で合意した債務の履行は完了したことが認められる。
また、本件示談条項の中には、同条項に定めるほか、原告と被告との間には何らの債権債務のないことを確認する旨の条項(以下「本件精算条項」という)もあるから、
本件示談条項の履行及び本件精算条項により、原告と被告との間において、本件取引に係る返還請求権を含む一切の債権債務は消滅したというべきである。
原告は、本件示談は、強行法規である利息制限法を超える約定利率で算出した残債務を前提としたものであって、違法であり、当然に無効である旨主張する。
しかしながら、利息制限法を超える約定利率で算出した残債務であっても、同法が強行法規であるというだけで、同債務に係る合意が当然に無効となると解することはできない。
同法を超える約定利率による貸借(取引)であっても、貸金業法(平成18年法律第115号による改正前の題名は貸金業の規制等に関する法律)所定のみなし弁済に関する規定の適用の有無によって借主の還請求権の有無及びその額が決定されるものであり、
また、同請求権の行使の有無及びその範囲についても、借主が自由な意思で決定することができるのである(なお、本件示談は、平成〇年〇月に開始された本件取引について、
平成〇年〇月に成立したものであり、当時、みなし弁済適用の要件の解釈について下級審裁判所や学説が分かれていて、みなし弁済の規定の適用を認める裁判例も少なからず存在したことは、当裁判所に顕著な事実である)。
したがって、本件示談において、原告と被告が、本件取引に係る残債務の存在及びその額を確認した上、その弁済方法を定めた結果が、
利息制限法の適用結果と一致しないからといって、そのことから本件示談を無効とすることはできないと言わなければならない。
また、原告は、仮に、絶対的に無効でないとしても、本件示談は、事前に被告から取引履歴が開示されず、みなし弁済に関する説明も一切ない状態で合意されたものであり、
このため原告は真実の権利関係を認識しないまま契約に至ったのであるから、錯誤により無効であるというべきである旨主張する。
しかしながら、本件示談においては、本件取引に係る債権債務の有無及びその額(具体的には、約定に基づく残債務の有無とその額、或いは返還請求権の有無及びその額)が正に争点となっていたところ、
同争点に関して前記のとおりの本件示談条項を内容とした合意が成立したのであり、これによって、返還請求権が存在していたとしても消滅したこととなったのは、示談(和解)の正に性質上当然の結果というべきである(民法696条参照)。
そして、原告が、本件取引に関する本件示談において、その前提となる諸要素、すなわち、取引日、貸付金額、返済金額等に関してその事実の認識に誤りがあったこと認めるに足りる的確な証拠はない。
もっとも、甲3(原告作成に係る陳述書)には、前記主張に沿う内容の記載部分があるが、同記載内容のみから前記諸要素に関する事実認識の誤りがあったとは認め難く、
かえって、前記みなし弁済に関する思い違いがあったに過ぎないというべきであり、法律行為の要素に錯誤があったとき(民法95条)には当たらないというべきである。
以上の判決からわかることは
「引き直し計算の結果が和解内容と大きく食い違うかどうか」
が大きなポイントであるということです。
この判決では、引き直し計算をしても、まだ債務が残る事案で、引き直し計算の結果と和解内容に大きな違いはなかったケースのため、和解は有効とされました。
ただ、個人的には、弱者救済が立法趣旨である利息制限法が強行法規であることを考慮すると、利息制限法に反する和解は絶対的に無効という判断を取るべきであると考えます。
そうしないと、真に弱者救済などはできないと考えますが、現実の裁判ではそういった考えの裁判官は極めて少数派といえます。
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