相続放棄が成立【アイアール債権回収株式会社③】
死後5年以上経過してから相続人に「債権譲受通知書」が届いたケースの解決事例
相談内容
岡山県にお住いの方からアイアール債権回収株式会社から「債権譲受通知書」が届いたとご相談がありました。
結婚を機にご本人が実家(千葉県)を出てからは40年以上経過していました。
実家に住んでいた父は5年前に他界しましたが、その父の借金が相続人である自分宛てに初めて届いたということでした。
父が死亡してからこれまで債権者から一度も連絡はなく、ご本人は今回の通知で初めて父に借金があったことを知ったということです。
請求額は260万円と高額であり、どうにかならないかと思って当事務所に連絡がありました。
以下のページで、アイアール債権回収株式会社の対処法を紹介しているので参考にしてください。
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解決手段の検討
アイアール債権回収株式会社から届いた「債権譲受通知書」から以下の事実がわかりました。
債権の内容
- 譲渡人 ➡ ビジネクスト株式会社
- 譲受人 ➡ アイアール債権回収株式会社
- 契約者 ➡ 被相続人(ご本人の父)
- 契約日 ➡ 平成17年
- 債権譲受日 ➡ 平成24年
- 請求額 ➡ 260万円(元金98万円、損害金162万円)
被相続人が借金を残したまま死亡した場合は、相続人が借金も引き継ぐことになります。
ただし、被相続人が死亡してから3か月以内に裁判所に相続放棄の申し立てをした場合は、借金を含めた一切の遺産を相続しないで済みます。
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今回は被相続人の死亡からすでに5年以上経過していたため、一見すると相続放棄はできないようにみえます。
しかし、相続放棄の期間には例外があり、債権者からの通知で初めて借金の存在を知った場合、そこから3か月以内であれば相続放棄が受理される場合があります。
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この例外規定を利用するには、以下の条件をクリアーしている必要があります。
3か月経過後の相続放棄の要件
- 預貯金や不動産などの遺産を一切相続していない
- 債権者からの通知で初めて借金があることを知った
ご本人は実家を出てから40年以上経っていて、その後の帰省は2~3年に一度くらいだったので、実家の経済状況は把握していませんでした。
そのような事情から、お父様が亡くなられた際もご本人は一切の遺産を相続しておらず、まさか借金があるとは思わなかったようです。
よって、今回は相続開始からすでに5年以上経過していましたが、今からでも相続放棄が受理される可能性があると判断して、相続放棄の申し立てをおこなうことしました。
その際は当事務所が以下の点を踏まえた上申書を作成して、アイアール債権回収からの通知があるまでに被相続人に借金があることに気づかなった事情などを裁判所に説明しました。
上申書に記載した内容
- 2~3年に1回くらいしか実家には帰省していなかったこと
- 被相続人がどのように暮らしていて経済的にどうなのかという点について不明だったこと
- 被相続人の生前の経歴から借金があるとは思わなかったこと
- ご本人は経済的に安定しているので財産は一切相続しなかったこと
その結果、無事に裁判所で相続放棄が受理されました。
裁判所から届いた相続放棄申述受理通知書のコピーをアイアール債権回収に郵送したところ、それ以降は一切請求されることはなくなりました。
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アドバイス
民法は、被相続人の死亡と同時にその権利義務を相続人に当然承継させるとともに、相続人がこれを拒否する自由を与えています。
もし、相続を放棄したい場合は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければなりません(民法915条)。
この期間を熟慮期間といいます。
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熟慮期間を経過したときは、限定承認または相続放棄の選択権が失われ、単純承認をしたものとみなされます(同法921条)。
熟慮期間の起算点となる「自己のために相続の開始があったことを知った時」の解釈については、判例は原則として「相続開始の事実(被相続人の死亡)を知り、それによって自己が相続人になった事実を知った時」としています。
今回のケースでは、被相続人が死亡した事実を知らなかったわけではないので、熟慮期間の起算日は被相続人が死亡した日となります。
これに対して、実家と縁を切っていて死亡した事実すら知らなかったような場合は、その後に死亡の事実を知った時点で初めて熟慮期間が進行します。
なぜなら、そもそも自分が相続人になったことに気づいていないからです。
また、自分が相続人であることを知っていても以下のような特別な事情がある場合は、被相続人の死亡から数年が経過していても相続放棄が認められる場合があります。
相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知つた時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法九一五条一項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である(最判昭和59年4月27日)。
引用元:最高裁判所判例集
特別な事情については実務上はそこまで厳格に解釈されておらず、明らかに熟慮期間が経過していると認められない限り、相続放棄が受理されることが多いです。
なぜなら、相続放棄が受理されても、債権者は裁判で相続放棄の有効性を争うことが可能だからです。
これに対して、相続放棄が却下されると相続人は相続放棄を主張することができなくなるので、裁判所も却下すべき明らかな事情がなければ相続放棄を受理しているのが現実です。
よって、被相続人の死亡から何年経っていても、預貯金や不動産などの遺産を一切相続しておらず、債権者からの通知で初めて借金があることを知ったような場合は、諦めずに相続放棄の申し立てをしてみるのがよろしいかと思われます。
お問い合わせ
当事務所では3か月が経過した相続放棄の実績が豊富にあるので、ご自分で対応できない場合はお気軽にご相談ください。
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