親が未成年の子の相続をする際の問題点
父親Aが借金を残したまま死亡し、相続人がその妻Bと未成年の子C、Dの3人のケースで考えてみます。
相続放棄は相手方のない単独行為とされていますが、未成年者が単独で相続放棄を申し立てることはできません。
そのため、原則的に親権者が未成年者に代わって相続放棄の申立てをすることになります。
親権者は通常、未成年者がする法律行為に関し、すべての代理権を有していますが、もし、親権者と未成年者との間で利益が対立する場合は、親権者であっても未成年者の代理人になることはできません。
なお、親権者と未成年者との間で利益が対立する場合を、利益相反関係といいます。
利益相反関係にある場合は、親権者は家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立て、選ばれた特別代理人が未成年者に代わって法律行為をおこないます。
上記の例に戻りますが、相続人であるB、C、Dは、父親Aの借金を相続しないために3人全員が同時に相続放棄をすることにした場合を想定して利益相反を考えてみます。
この場合、親権者であるBだけでなく、その未成年の子であるC、Dについても同時に相続放棄をするので、たとえ、C、Dの相続放棄を親権者であるBがおこなったとしても、Bが利益を得ることはありません。
よって、親権者が未成年の子と同時に相続放棄をする場合は利益相反行為には該当しないため、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要はありません。
これに対して、父Aが事業をしており、特に借金がない場合を想定してみます。
仮に、未成年のCが長男で、Dが長女とし、父Aの事業を将来的には長男Cが継ぐ予定だとします。
この場合、母Bが当面の間は事業を継いでいくつもりですが、長男Cが学校を卒業した後は、長男に家業を継いでもらう予定です。
そのため、母Bは長女Dの相続分をこの際、放棄させたいと思っています。
そこで、母Bが未成年者の長女Dの相続放棄を親権者としてできるかどうかが問題となります。
この場合、親権者である母Bと長男Cは相続放棄せず、長女Dだけが放棄します。
その結果、相続人は母Bと長男Cの2人となり、長男Cの相続分が増加します。
つまり、長女Dが相続放棄することで長男Cの相続分が増える関係にあるため、長男と長女との間には利益相反関係が生じ、また、母と長女との間にも利益相反関係が生じる可能性があります。
というのも、長女が放棄をした後に、母と長男の間で父の遺産を母が1人で相続するような遺産分割がおこなわれる可能性があるからです。
そのため、この場合、母と長女は利益相反関係といえるため、親権者である母Bが未成年者である長女Dの相続放棄をすることはできず、家庭裁判所に特別代理人の申し立てをしなければいけません。
特別代理人を選任せずに、母Bが長女Dを代理して相続放棄をしても無権代理行為となり、本人である長女Dの追認がない限りその効力が生じないことになります。
なお、利益相反行為に該当するかどうかは、親権者の代理行為自体を外形的客観的に考察して判断すべきであり、その動機や意図でもって判定すべきではないというのが最高裁判所の考えです。
また、利益相反行為というのは、行為の客観的性質上数人の子ら相互間に利害の対立を生ずるおそれのあるものを指すのであり、その行為の結果、現実にその子との間に利害の対立を生じるかどうかは問いません。
よって、たとえ親権者が未成年者のためを思ってする場合であっても、その行為が形式的に利益相反行為であれば、特別代理人の選任が必要になります。
一般的には、亡くなった被相続人に借金があることを理由に相続放棄するケースがほとんどなので、そういった場合であれば親権者と未成年の子が同時に放棄することが多いかと思われます。
親権者と未成年の子が同時に放棄する場合は、すでに述べたとおり、利益相反行為には該当しないのでご安心ください。
もし、利益相反行為に該当するかどうかの判断が付かなかったり、ご自分で手続きすることに不安がある場合には、司法書士が相続放棄の手続きを代行することができます。
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