裁判における自由心証主義と弁論主義、民事訴訟と訴訟物

裁判での事実認定では、その対象は争いのある主要事実となります。

 

争いのあるとなりますので、争いのない主要事実は対象外です。

 

つまり、自白が成立した主要事実は、弁論主義からそれを基礎にしなければいけないので、証拠調べが不要になります。

 

証拠調べが不要なケースには、公知の事実、職務上顕著な事実がありますが、公知の事実とは、一般の人々に知れ渡っている事実のことです。

 

職務上顕著な事実とは、裁判官が職務をおこなう上で知り得た事実のことですが、主要事実が認められるためには立証をする必要があります。

 

立証がされなかったり、不十分であるために、主要事実が真偽不明だったり、積極的になかったといえる場合は、その法律効果が生じないという結果になります。

 

この主要事実の認定は、裁判官の自由な心証に基づいて判断され、これを自由心証主義といいます。

 

裁判官が自由に判断できるといっても、恣意的に決めてよいというわけではなく、経験則に基づいた合理的な判断をしなければいけません。

 

経験則とは、人間生活における経験から帰納される事物に関する一切の知識、法則であり、一般常識から科学上の法則までを含むものです。

 

経験則が最も活用される場面は、間接事実から主要事実を推認するケースで、主要事実とは法律要件の発生、障害、消滅、阻止を規定し、主張、立証責任の対象となるものです。

 

これに対し、間接事実とは、主要事実を推認させる、あるいは推認を妨げる事実です。

 

主要事実と間接事実の他に、証拠の信用性に影響を与える事実である補助事実というものがあります。

 

つまり、民事訴訟では、まず主張があり、そこで当事者間に争いがなければ、弁論主義により裁判所の判断を拘束し、争われる場合は証拠によって立証しなければいけないということになり、もし、立証できなければ、法律効果の発生が認められません。

 

立証責任がいずれの当事者が負うかについては諸説ありますが、その要件事実の存在が認められれば発生するであろう法律効果との関係で理論的、客観的に定まるとする法律要件分類説が一般的な考え方です。

 

なお、本証とは、立証責任を負う当事者のする立証活動のことで、立証責任を負っているので、高度の蓋然性をもって確かであるといえる程度まで立証しなければいけません。

 

これに対し、反証とは、立証責任を負っていない当事者のする立証活動で、主要事実について真偽不明の状態にすれば足ります。

 

過払い金を貸金業者に請求する不当利得返還訴訟では、原告である借主は被告である貸金業者から開示された取引履歴を証拠として提出するのが一般的で、貸金業者も自分で開示してきた取引履歴の内容について争うことはありませんので、開示された取引履歴を元に利息制限法で引き直し計算した金額をもとに請求されているのであれば、証拠としては取引履歴のみで済むことがほとんどです。

また、民事訴訟では、原告が求める権利または法理関係の存否が認められるかどうかを審理、判断します。

 

しかし、こうした権利、法律関係というのは、直接目に見えるようなものではなく抽象的なもので、直接証明することができません。

 

そのため、その権利、法律関係を発生させる事実があったことを主張する必要があります。

 

たとえば、貸したお金を返してほしいのであれば、金銭を貸し付けたという事実を主張することになります。

 

ただし、主張しているだけではダメで、その事実を証拠によって証明する必要があります。

 

そして、主張と証拠によって、その事実が認められることによって、権利、法律関係が認められるということになるわけです。

 

上記のとおり、訴訟上の請求は、一定の権利または法律関係の存否の主張という形式をとり、訴訟物とは、訴訟上の請求の内容であって、原告が求めている権利または法律関係のことです。

 

この訴訟物ですが、何をその訴訟において訴訟物とするかは、原告が自由に決めることができ、これを処分権主義といいます。

 

なお、民事訴訟法では、以下のようなルールがあります。

 

1. 訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。

 

2. 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。

 

 ① 当事者及び法定代理人

 

 ② 請求の趣旨及び原因

 

請求の趣旨というのは、その訴訟における原告の主張の結論で、原告が勝訴した場合の判決の主文に相当し、原告が、どういう権利または法律関係を訴訟物とし、どういう範囲で、どういう形式の判決を求めているのかを明確にするものです。

 

実務上、請求の趣旨にはその請求の理由づけや法的性質を記載しないので、貸金請求であれば、請求の趣旨は

 

「被告は、原告に対し、金〇〇〇万円を支払え」

 

とだけ記載します。

 

そのため、金銭の給付を求めるような給付訴訟だと、請求の趣旨だけでは訴訟物が何なのかがわかりません。

 

そこで、民事訴訟法では、請求の趣旨だけではなく、請求の原因も記載するよう求めています。

 

つまり、請求の原因では、訴訟物を特定するための事項を記載することが求められます。

 

このように、訴訟物は、訴状に記載されている請求の趣旨と請求の原因を読めばわかりますが、実務上は、訴状の請求原因の最後に、原告の主張をまとめた記載をし、一般にこれを「よって書き」とよんでいます。

 

このよって書きにより、

 

1. 訴訟物の内容や給付、確認、形成の区別

 

2. 全部請求か一部請求の区別

 

3. 併合態様

 

が判明します。

 

なお、裁判所は、その訴訟物と異なる訴訟物について判断をすることはできません。

 

たとえば、訴訟物が〇〇〇万円の貸金返還請求権であった場合、貸金の存在は証拠上認められず、反対に〇〇〇万円の売買代金の存在が認められても、勝手に裁判所が売買代金の支払いを命じることはできません。

 

ところで、過払い金返還請求の訴状では、請求の趣旨は

 

「被告は、原告に対し、金〇〇万円及び内〇〇万円に対する平成〇〇年〇〇月〇〇日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え」

 

となります。

 

そこで、この請求の趣旨から何が訴訟物になっているかですが、過払い金元本については不当利得返還請求権が訴訟物になります。

 

なお、民法703条では、不当利得返還請求の実体法上の成立要件として以下の5つを挙げています。

 

1. 被告の利得

 

2. 原告の損失

 

3. 損失と利得間の因果関係

 

4. 被告の利得に法律上の原因がないこと

 

5. 利益が現存すること

 

ただし、5の現存利益は、一定の利得が生じた時点で不当利得返還請求権が発生し、その後の利得の減少、消滅は、その消滅事由になるので、被告の抗弁になると考えられています。

 

なお、これ以外に、付帯請求として過払い金に対する利息も請求していますので、過払い金返還請求訴訟では上記不当利得返還請求権に基づく利息支払請求権も訴訟物となります。

 

すなわち、原告は、この訴訟で2つの訴訟物を請求していることになるわけです。

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